馬のワークショップ@鴨川(2025/3/20) 参加報告

協会の活動

2025.6.12

日本治療的乗馬協会  宮坂征治

馬のワークショップ@鴨川(2025/3/20) 参加報告

馬のワークショップ@鴨川(2025/3/20) 参加報告  日本治療的乗馬協会 宮坂征治

去る3月20日、千葉県鴨川市の⼭間部にある釜沼地区で開催された⾺のワークショップに参加しました。その様子をご紹介します。

このワークショップを企画・主催したのは、「⼀般社団法⼈ ⼩さな地球」。⾞で約1時間半と、東京から最も近い棚⽥(有名な⼤⼭千枚⽥と同じ地区)と⾥⼭が残る美しい釜沼地区において、地域の方々と移住者を含む環境意識の⾼い都会の⼈たちが集まり、ともに環境保全活動の実践を通して次世代に向けたライフスタイルを追求しているグループです。林良樹さん(25 年前に移住してNPO を設立し棚⽥と⾥⼭の維持を続けている)、塚本由晴さん(東京科学⼤学で建築学を教えながら建物だけでなく⾃然や環境のデザインまで活動の幅を広げている)、福岡達也さん(コロナ前に都会から家族で移住してきた)の3⼈を共同代表として運営されています。

 

このグループは、「資源的⼈会議」のタイトルで、古⺠家の再⽣、茅葺き屋根の葺き替え、森林の環境保全など、実際の作業と講義を半⽇ずつ⾏う1⽇イベントのワークショップをシリーズで開催、回を重ねています。

この地区を含む南房総では、古代から放牧場(嶺岡牧)が設置され、武⼠のための軍⾺の育成・管理が盛んだったほか、江⼾時代には徳川吉宗公がオランダから酪農を導⼊して⽇本最初の酪農業が始まったという歴史があります。このような経緯もあり、戦後しばらくは⽜⾺が⾝近にいる地域でした。今でもこの地域の古⺠家には⺟屋の隣に併設された⽜⾺のための古⼩屋が残っているところが多いのですが、今では⽜⾺を活⽤した頃を知る⼈も僅かとなり、酪農家もわずかに散在する状況になっています。

⾺が近くにいた当時の日常のなかで、⼈と⾺の関係はどのようなものだったのか?⼈は⾺を利⽤していたというが、それはどのようなものだったのか?それは、現在使われている⾞やトラック、農機や重機とはどう違うのだろうか?かつてのその風景を実際に⾒て、感じることで何かがわかるのではないか?これからの「⼩さな地球」の取り組みに何か⽰唆があるのではないか?そんな思いから第15回⽬にあたる今回の企画「⾺に乗って⾏く未来の⾥⼭」は⽣まれ、実現したとのことでした。

JTRAは、馬の人の心理に与える影響を考える時、馬耕・馬搬がもたらす人と馬との関係の検討を視野に入れることは欠かせないと考え、この企画に協賛しました。

 

講師に、⾺耕・⾺搬の技術の伝道師として著名な岩間 敬さん(一般社団法人 馬搬振興会 代表力、三馬力社 代表)と2頭の重種⾺を岩⼿県遠野から迎え、午前には、馬を使った⽥んぼの⽥おこし(⽥植え前の固い⼟を掘り起こす作業)、裏⼭から切り出した⽊材を運ぶ作業の実演が行われました。午後には、「⼩さな地球」の拠点である古⺠家の⼤広間で、岩間さんからご自身が取り組まれている幅広い⾺の活動のご紹介があり、意⾒交換や質問の時間がありました。

 

以下に、写真を使って当⽇の内容をご紹介します。

 

1.「資源的人」と企画趣旨

ここにある「資源的⼈」とは、「⼩さな地球」共同代表のお一人、塚本さんの造語だとのこと。「⼈的資源」は、経済活動をするヒトの経済価値に注⽬する⾔葉で、モノを消費していく近代社会の発想に基づいています。しかし、これから⼤事なのは資源を⾃分の⾝の回りから取り出し活⽤していく「資源的⼈」になることではないか、という考え⽅に基づいて創られました。そこでは⾃然や環境との関係、資源の循環とそのために必要な技術の追求が求められます。この言葉には、これらをどうデザインしていくべきか、というメッセージがこめられています。

かつて何百頭もの⾺で満ちていたこの地域。この地で⾺とそしてかつて人が馬とともにしていた仕事に実際に触れ、その「⾺のいる⾵景」に未来の⾥⼭がどのように⾒えてくるか?それを皆で考えたい、という思いから企画されたとのことでした。

 

2.⾺耕の実践

乾いた⽥んぼの⼟を掘り起こし、細かく砕く作業である「⽥おこし」を伝統的な犂(すき)を⾺に引かせて⾏います。⾺は作業を理解しており、岩間さんの⼿慣れた職⼈技で正確な⼀直線のラインで重粘度の⽥んぼが想像を超えるスピードで掘り起こされていきます。その光景に参加者から⼀⻫に驚嘆の声が上がります。そこで使われる犂も、かつての⽇本⼈が改良に改良を重ねて⼤事に伝承された技術の結晶です。参加者の⽬はそこにも向けられていました。

 

3.⾺耕の実践と解説

絶妙なジョークでしっかり参加者を惹きつけるのも「伝道師」の腕。その間にしっかり⾺に休むいとまを与えています。

 

 

 

4.⾺搬の実践

裏⼭から切り出した⼀本杉は⼈の⼿ではとても動かせません。ところが、岩間さんと⾺のコンビは、チェーンを巻きつけるや、掛け声と共に⼈が⾛らないと追いつけないスピードで横⽊を⽬的の場所まで⼀気に運んでしまいます。⾺のすごいパワー、⾞や重機がなかった時代に林業に⾺が使われていた理由がよくわかる光景でした。

5.古⺠家「したさん」の中庭にて:⾺のいる⾵景を楽しむ

この地域に⾺が戻ってきた⾵景に、地元の⼈たちには驚きとともに懐かしさがあった様⼦でした。⽥んぼとその向こうに広がる森、その間にある⼈間の暮らす空間、「里山」。そこに⾺が⾝近な存在としていたことに想いを馳せる。ペットのように⾺を飼う余裕はない。⾺に働いてもらい、共に暮らし、癒しをもらうような関係性はどうか?

⾺のいる⾵景にはいつも以上に笑顔がありました。

 

 

以上