「木曽馬の里」における実践活動 第3回

各地の活動から

2023.12.4

木曽馬の里   中川剛

「木曽馬の里」における実践活動 第3回

バランスとリラックスを考える

中川 剛(木曽馬の里 木曽馬乗馬センター)

 

 今回は、近頃の乗馬クラブでの初心者乗馬では後回しにされがちなバランスとリラックスを考え、「馬たちに気持ちよく乗せてもらう」ことって何だろうかということについて少し書いてみたいと思います。

 

「バランス」ということ

 定期的な活動となった木曽養護学校の「馬の学習」にかかわることを通じ、私たちが日常行っている乗馬について、改めて感じていることがあります。

 それは「騎乗者のバランス」についてです。一般に行っている体験乗馬や馬場内での単独騎乗を見ていて、乗り始めから5分以上の時間を左右対称にきれいに馬にまたがっている人の姿を見ることはごく希なことです。初めから馬の背中にスポッと収まって座れている人はさらに少数で、どちらかにバランスが崩れていたり、さらにその方向に落ちてしまう人など、馬の背中の真ん中に乗っていられない人のほうが多く見受けられます。

 障害のある人を含め乗馬経験のあまりない人が乗馬する際、馬に乗るということへの期待感、高揚感そして不安など心理的な緊張、また、日常生活における習慣的な体の使い方の偏りからくる硬さなど、心身の様々な緊張がバランスを取って馬に乗ることの邪魔をしている様子を見て取ることができます。これは日常的に乗馬をしている人たちにも同様に言えることで、このバランスを無視して馬に乗っている人も少なくない印象を受けます。

 それは馬にストレスを与え、騎乗者と馬との関係にも影響すると感じます。機械的にこちらに合わせてバランスをとってくれるような世の中の在り方も影響しているのでしょうか。

 

「リラックス」ということ

 私たちの施設が受け入れている活動の一つに、学校の先生が余暇を利用して地域の障害のある子どもたちの乗馬をサポートする活動があります。この活動は月一回の頻度の乗馬会で、長年行われてきました。この活動では、障害のある子どもたちを保護者が交互に介助しあいます。また、保護者もそして兄弟姉妹、障害のある本人がどのような感覚で馬にまたがっているのかを体験し実感することを大切にしています。サイドウォークをする方たちと相互に確認しながら介助の練習をしたりされたり、目を閉じて乗ってみたり、時には地上でアイマスクをして歩いてみたり、体のバランスだけでなく、人と人や人と馬のコミュニケーションなどの視点から、どうしたら楽しく気持ちよく乗れるのか、乗せてもらえるのかを試行錯誤してきました。この活動は、「リラックスする」とは何だろうか、そしてその奥深さを考えるきっかけになりました。入浴することや温かい布団に入ることなど、リラックスすることが「癒し」と言われていることにつながることには、多くの方が頷かれるだろうと思います。

 また、馬の存在が人に何らかの「癒し」の機会を提供してくれるということは、ずいぶん以前から言われてきました。馬がいることで、馬とかかわることで、馬に乗る事で、「癒される」とを感じたことのある方は多いのではないでしょうか。

 

「気持ちよく馬に乗る」ということ

 「気持ちよく馬に乗る」とは何だろうかを考えると、ただ馬に乗るだけでなく、馬の上で無理なくバランスを取り乗っていることなのではないかと私は考えています。また、心理的そして身体の緊張と弛緩、リラックスとバランスは相互に作用していて、それは障害のある方たちの活動だけでなく、日常的に馬に乗っている人への乗馬の状態を評価するポイントの一つでもあります。この点は人が「気持ちよく馬に乗る(乗せてもらう)」うえで重視して考えていく必要があり、また感じていく必要があるのではないかと思います。

 馬に乗るということを改めて考え、障害のある方を対象とした乗馬が軌道に乗っていった今から10年ほど前のことになりますが、馬との触れ合いを町民に還元ができないかという担当行政からの問いかけがありました。それまで私たちの活動は障害のある子どもたちを対象とした活動が中心でしたが、これをきっかけに生まれたのが、馬の上や馬の周りで「自分を感じる」「馬上リラックスプログラム」でした。

 町内の主婦の方たちを中心に動き始めたこのプログラムの内容は、現在では乗馬レッスンの歩様の壁(主に速歩でのバランス)に悩んでいる方のレッスンプログラムにもつながっています。

 

 

 そういえば、自分が乗馬を習っていた30年ほど前、苦しい思いをしながら「やらされていた」調馬索騎乗や蹄跡上でのバランス練習は、騎乗者にとってだけでなく、馬にとって優しい乗り方をするためにも重要だったのだなと思い出しています。あの頃の練習が、感じるだけでなくもっと考える練習だったら、自分自身のバランスの状態や、馬たちが感じ取っている不快感を知り、そこから自身の乗馬を見つめられたのではないだろうかと思います。そして、今それを見つめられるようになって良かったと思いつつ、やっぱり自分自身が体感し、そのなかで試行錯誤することは大切だなと改めて思います。

 そのようなことから、最近では日常的に馬に乗る方も、時々馬に乗る方も、自分の体全体の中で各パーツの重みを感じて乗ってみる経験をしてもらいたいなと願い、一般的にはつまらない練習やつらい練習と思われがちなバランスレッスンを行ったりしますし、日常乗っている施設でもやってもらってみてはどうですかと伝えるなどしています。もちろん、そういったかかわりができるインストラクターや馬がいて、それが許される場でということが前提になるのですが。