「木曽馬の里」における実践活動 第1回

各地の活動から

2021.9.30

木曽馬の里|中川剛

「木曽馬の里」における実践活動 第1回

はじめに

かつて、日本国内には100万頭を超える馬が飼育されていました。それが、現在では約7万5千頭といわれています。
さて、皆さんは日本に現存する日本固有の馬、「日本在来馬」をご存知でしょうか。現在、全国に8種、約2000頭が飼育されています。
現存する在来馬の原産地域のほとんどは、いわゆるへき地と呼ばれる場所です。
戦時中の軍馬改良の中で目が届きにくかった山奥であったり、島であったり、そのような場所だからこそ、種が残され戦後も馬の飼育が続いてきた歴史があります。
ここでは、「日本在来馬」の一つである「木曽馬」と木曽馬の保存施設「木曽馬の里」の活動をシリーズで紹介していきます。

 

1 「木曽馬の里」について


[放牧場から望む御嶽山]

長野県木曽町開田高原は、かつては木曽馬の一大産地といわれた木曽地域の山間にある高原地帯です。
古くは2,000頭以上もの馬たちが飼育されていたといわれるこの地域に、「木曽馬の里」があり、現在約40頭の木曽馬が飼育されています。
「木曽馬の里」の役割は、主として木曽馬の保存繁殖です。そのため、毎年数頭の子馬が誕生し、親子で駆け回る景色を見ることができます。
また、観光施設としても解放されており、約50ヘクタールの広い敷地内に大小の放牧場が点在し、御岳山をバックにのんびりと放牧されている風景は、見るだけでもホッと一息つける景色なのではないでしょうか。放牧されている馬たちに草をあげたり触れ合ったりすることもできます。

 

2 木曽馬の特徴と施設の環境を活かした活動


[上級生と一緒にグルーミング]

木曽馬は、平均で体高132cmとそこそこの大きさがあり、大きなポニーサイズです。
盲腸が馬の平均よりも太く長いことからお腹がぽってりと出て足が短いこの馬たちは、乗っても縦に揺れる幅が小さいのが特徴で、観光乗馬だけではなく、近隣の養護学校の生徒たちの学習など障害のある人たちに利用されるようになり20余年が経とうとしています。
いわゆる「ホースセラピー」では、多くの方が馬に乗っての活動場面を連想するかも知れませんが、ここでは乗るだけでなく、馬とかかわること、そして馬の施設を含む環境全体を活かして活動を行う工夫をしています。
乗ること以外には、馬と一緒に歩く、馬のグルーミングを行う、馬たちの生活する厩舎の掃除をするなどがあります。
また、広大な敷地には散策道があり、高原の木陰を歩きながら、のんびりと馬たちを眺めるなども大切にしている活動です。

現在継続的に利用されているのは、肢体不自由や知的障害のある方、不登校の子供たち、乗馬クラブなどで落馬を経験し、馬が少し怖くなってしまったけど、また乗ってみたいと思っている方、馬の背中でゆっくりと揺られてリラックスしてみたいと思っている方、あわただしい生活の中で感じる息苦しさから解放されたい方など、様々です。
私たちは、そのような利用者の方々が安心してかかわることのできるよう<木曽馬>という希少種を生産し、日々馴致調教をしています。

木曽馬の里は、その設置目的から木曽馬のみを飼養しています。
このことから、ここでの活動は木曽馬ならではの特徴と個々の馬たちの個性を最大限活かしていくことを重視しています。
その特徴として、先ほど挙げた縦揺れが少なく安心して乗っていられることがその一つですが、障害のある利用者のなかには、騎乗時や馬の揺れによってバランスを崩しやすく、騎乗中の姿勢を維持するために介助の必要な方がいます。
そのような場面でも、背の低い木曽馬は、女性でも介助しやすいという障害のある利用者の乗馬をサポートする面でもメリットを挙げることができます。
また、大きな馬はそれだけで威圧感があり、子供たちは怖く感じてしまうこともあります。
反対に、小さい馬の場合はいつも見下ろされていて、人に対して卑屈になって問題行動を起こしてしまう馬もいるといわれています。
そういった意味で、木曽馬は目線が人に近く独特の関係をつくれるように感じます。そして何より、その穏やかな性質がセラピーホースに向いているのではないかと考えています。

反対にデメリットとして考えられるところがあります。
一般的に、頸の短い馬は扱いにくいといわれていますが、まさに木曽馬は頸の短い馬です。
しかし、生産から活用までの一貫した馬との関係、観光牧場という環境で馬たちが不特定多数の方への対応、そして馬が馬らしく暮らせる群れでの生活といったことを通じて、「木曽馬の里」の馬たちはそのような特徴を越え、人と落ち着いたコミュニケーションが可能になっています。

 

おわりに


[ワークショップにて]

近年私たちは、馬の背に揺られながら心とからだをほぐしていくプログラム、馬と一緒の高原散策、馬とのコミュニケーションから人との対話を考えるワークショップなど、木曽馬と御嶽山を臨む自然豊かな開田高原という環境を最大限に活かした様々な活動を行っています。
次回からは、それら様々な活動にスポットを当てて紹介をしていきたいと思っています。