ポニーのいる特別支援学校として

1.学校紹介


埼玉県立深谷はばたき特別支援学校は、知的障害のある子どもたちを対象とした特別支援学校です。
埼玉県北部に位置し、深谷市、熊谷市、寄居町が主な学区となっています。
 
校舎からは北側に荒川、南側に金勝山を見ることができる、自然や田畑に囲まれた穏やかな学校です。
 
本校は、平成23年度に開校し、昨年の令和2年度に創立10周年を迎えました。
現在は小学部87名、中学部74名、高等部123名、計284名の児童生徒が在校しています。
 
本校の学校教育目標は、「笑顔、かがやき、そして未来へ」です。子どもたち一人一人が笑顔でかがやけるように、そしてこれからの未来へ大きくはばたいていけるように、「翼」=「心」を育てることを学校教育目標としています。また、子どもたちの社会的自立を目指し、主体的に生きる力を育む学校となることを、目指す学校像として設定し、取り組んでいます。
 
本校の特色として、キャリア教育や自立活動の充実、広い敷地を活用した幅広い教育活動、そして、ポニーを活用した学習の実践が挙げられます。

 

2.本校児童生徒について

本校の児童生徒は、様々な障害がありながら、元気に学校生活を送ることができています。
新型コロナウイルスの流行で、様々な活動が制限されていますが、そんな中でも学校行事に全力で取り組む姿を見ることができます。
 
5月には、昨年中止を余儀なくされた運動会が開催されました。
感染症予防のため、小学部、中学部、高等部と分かれて行われましたが、日々の教育活動の成果を発揮できた運動会となりました。
 
小学部では、子どもたちに大人気の『鬼滅の刃』の主題歌である『紅蓮華』に合わせてダンスを踊りました。元気よく、のびのびと踊る姿が印象的なダンスでした。
 
中学部では、高知県の伝統的な踊りである『正調よさこい』を披露しました。
学部全体を通して練習をしている踊りで、鳴子のパチパチという音が校庭中に響き渡りました。
 
高等部では、学年の選抜リレーが行われました。1人ひとりが全力を出し、校庭を駆け抜けていきました。
ゴール後には、仲間内で称え合い、励まし合う姿が見られました。
 
まだまだ活動に様々な制約がある中ですが、子どもたち一人ひとりが成長し、明るく元気に学校生活を送ることができています。

 

3.ポニーについて・飼育環境


〔メロン〕
 
本校では、「メロン」という名前のポニーを、敷地内で飼育しています。
今年15歳になる牝馬で、人懐っこく、マイペースな性格のポニーです。体高は約125cmで、小学部低学年の子どもたちとほぼ同じ背の高さです。
また、開校当初から学校におり、誰よりも長く子どもたちと接しています。
 
普段は敷地内の「ふれあい広場」と呼ばれる施設にある厩舎・パドックで生活をしており、子どもたちがポニーと自然に関わることができる環境にいます。
 
日々の給餌や掃除、手入れ、運動は、ポニー共育推進委員会を中心に、全教職員が当番制で行っています。
子どもたちの下校後や休日は、広場内で放牧をし、柵の外からメロンが自由に過ごしている様子を見たり、ニンジン等のおやつを与えたりすることができます。

 

4.ポニー導入の経緯

平成22年、埼玉県立北部地域特別支援学校(仮称、後の埼玉県立深谷はばたき特別支援学校)の開設準備室で、「人と交流できる大型の動物を導入しよう」と、大型動物導入の検討が始まりました。
 
ポニーの導入にあたっては、教育活動の重点に、動物(ポニー)とのふれあいによる心とからだの育成を位置づけて取り組むこととしました。
子どもたちには、①ポニーの飼育活動をとおして優しい気持ちを育んでもらいたい、②乗馬をとおして、姿勢を整えて身体をリラックスさせ、落ち着いて活動できる力を養ってほしい、という2つの思いがありました。
また、効果や成果を地域の方々と共有し、地域コミュニティーの一層の充実を図っていきたい、という期待も込められていました。このような教職員の願いを受けて、ポニーが導入されました。

 

5.ポニーを使った教育活動の実践


〔メロンと生徒の様子〕
 
ポニーを使った教育活動として、中学部の生徒を対象とした自立活動を紹介します。生徒が中学部2学年の時にポニーを使った活動を始め、2年間取り組みました。
 
対象生徒は、移動時や授業中に突発的に走り出すことが多く、周りの人を押しのけたり、前にいた子どもにぶつかってしまったりしたこともありました。
突発的な走り出しの原因として、本人の様子や行動から、見通しが持って行動できる分、一刻も早く目的の場所に着きたいという気持ちがあるのではないか、と考えられました。
そこで、『安全に配慮して行動することができる』という目標を設定し、教員や友人と一緒に行動できるような場面を多く設定すること等、指導や支援の内容として取り入れました。その指導の中で、ポニーの引馬を行うことで、周りを意識して歩くことができるのではないかと考え、指導に取り入れるようにしました。
 
本生徒とポニーの関係は良好で、ブラッシングや餌あげ等基本的なお世話は小学部から経験してきていました。
本人もポニーと触れ合うことに抵抗がなく、毛並みに沿って触ったり、首や背中を優しく撫でたりすることができました。
 
活動の主な内容は、ブラッシング、引馬、餌(ニンジン)あげの3つです。
引馬は、最初は引手を持って広場内を一周するのも難しく、引手を途中で放したり、ポニーを置き去りにして走って行ったりすることが多かったです。
そのような中でも、ポニーの背中やたてがみに片手を沿えて歩いたり、立ち止まってポニーを撫でまわしたりするなど、一緒に歩くポニーを気にしている様子が見られました。このような活動を1年ほど続けると、本生徒は、引手を放すことなく歩くことができるようになってきました。
 
1週間に1回、移動や準備を合わせて45分ほどの活動時間でしたが、このような取組を2年間続けました。
中学部を卒業するころには、本生徒は広場内を2~3週程、走ることも立ち止まることもなく、ポニーに合わせて歩くことができるようになりました。
また、日常生活の中でも、1日に数回あった突発的な走り出しが目に見えて少なくなり、友人と一緒に落ち着いて行動できるようになりました。
 
ポニーの教育活動の1つとして、自立活動の事例を取り上げさせていただきました。
この他にも、生活単元学習や、飼育委員会での活動などがあります。
次回から、メロンと子どもたちの交流の様子やメロンとともに行う教育活動を折々にお伝えしていきます。