「木曽馬の里」における実践活動 第3回

バランスとリラックスを考える

中川 剛(木曽馬の里 木曽馬乗馬センター)

 

 今回は、近頃の乗馬クラブでの初心者乗馬では後回しにされがちなバランスとリラックスを考え、「馬たちに気持ちよく乗せてもらう」ことって何だろうかということについて少し書いてみたいと思います。

 

「バランス」ということ

 定期的な活動となった木曽養護学校の「馬の学習」にかかわることを通じ、私たちが日常行っている乗馬について、改めて感じていることがあります。

 それは「騎乗者のバランス」についてです。一般に行っている体験乗馬や馬場内での単独騎乗を見ていて、乗り始めから5分以上の時間を左右対称にきれいに馬にまたがっている人の姿を見ることはごく希なことです。初めから馬の背中にスポッと収まって座れている人はさらに少数で、どちらかにバランスが崩れていたり、さらにその方向に落ちてしまう人など、馬の背中の真ん中に乗っていられない人のほうが多く見受けられます。

 障害のある人を含め乗馬経験のあまりない人が乗馬する際、馬に乗るということへの期待感、高揚感そして不安など心理的な緊張、また、日常生活における習慣的な体の使い方の偏りからくる硬さなど、心身の様々な緊張がバランスを取って馬に乗ることの邪魔をしている様子を見て取ることができます。これは日常的に乗馬をしている人たちにも同様に言えることで、このバランスを無視して馬に乗っている人も少なくない印象を受けます。

 それは馬にストレスを与え、騎乗者と馬との関係にも影響すると感じます。機械的にこちらに合わせてバランスをとってくれるような世の中の在り方も影響しているのでしょうか。

 

「リラックス」ということ

 私たちの施設が受け入れている活動の一つに、学校の先生が余暇を利用して地域の障害のある子どもたちの乗馬をサポートする活動があります。この活動は月一回の頻度の乗馬会で、長年行われてきました。この活動では、障害のある子どもたちを保護者が交互に介助しあいます。また、保護者もそして兄弟姉妹、障害のある本人がどのような感覚で馬にまたがっているのかを体験し実感することを大切にしています。サイドウォークをする方たちと相互に確認しながら介助の練習をしたりされたり、目を閉じて乗ってみたり、時には地上でアイマスクをして歩いてみたり、体のバランスだけでなく、人と人や人と馬のコミュニケーションなどの視点から、どうしたら楽しく気持ちよく乗れるのか、乗せてもらえるのかを試行錯誤してきました。この活動は、「リラックスする」とは何だろうか、そしてその奥深さを考えるきっかけになりました。入浴することや温かい布団に入ることなど、リラックスすることが「癒し」と言われていることにつながることには、多くの方が頷かれるだろうと思います。

 また、馬の存在が人に何らかの「癒し」の機会を提供してくれるということは、ずいぶん以前から言われてきました。馬がいることで、馬とかかわることで、馬に乗る事で、「癒される」とを感じたことのある方は多いのではないでしょうか。

 

「気持ちよく馬に乗る」ということ

 「気持ちよく馬に乗る」とは何だろうかを考えると、ただ馬に乗るだけでなく、馬の上で無理なくバランスを取り乗っていることなのではないかと私は考えています。また、心理的そして身体の緊張と弛緩、リラックスとバランスは相互に作用していて、それは障害のある方たちの活動だけでなく、日常的に馬に乗っている人への乗馬の状態を評価するポイントの一つでもあります。この点は人が「気持ちよく馬に乗る(乗せてもらう)」うえで重視して考えていく必要があり、また感じていく必要があるのではないかと思います。

 馬に乗るということを改めて考え、障害のある方を対象とした乗馬が軌道に乗っていった今から10年ほど前のことになりますが、馬との触れ合いを町民に還元ができないかという担当行政からの問いかけがありました。それまで私たちの活動は障害のある子どもたちを対象とした活動が中心でしたが、これをきっかけに生まれたのが、馬の上や馬の周りで「自分を感じる」「馬上リラックスプログラム」でした。

 町内の主婦の方たちを中心に動き始めたこのプログラムの内容は、現在では乗馬レッスンの歩様の壁(主に速歩でのバランス)に悩んでいる方のレッスンプログラムにもつながっています。

 

 

 そういえば、自分が乗馬を習っていた30年ほど前、苦しい思いをしながら「やらされていた」調馬索騎乗や蹄跡上でのバランス練習は、騎乗者にとってだけでなく、馬にとって優しい乗り方をするためにも重要だったのだなと思い出しています。あの頃の練習が、感じるだけでなくもっと考える練習だったら、自分自身のバランスの状態や、馬たちが感じ取っている不快感を知り、そこから自身の乗馬を見つめられたのではないだろうかと思います。そして、今それを見つめられるようになって良かったと思いつつ、やっぱり自分自身が体感し、そのなかで試行錯誤することは大切だなと改めて思います。

 そのようなことから、最近では日常的に馬に乗る方も、時々馬に乗る方も、自分の体全体の中で各パーツの重みを感じて乗ってみる経験をしてもらいたいなと願い、一般的にはつまらない練習やつらい練習と思われがちなバランスレッスンを行ったりしますし、日常乗っている施設でもやってもらってみてはどうですかと伝えるなどしています。もちろん、そういったかかわりができるインストラクターや馬がいて、それが許される場でということが前提になるのですが。

 

ポニーを活用した小学部の教育活動実践事例  川内このみ

 

はじめに

 小学部では、ポニーとの触れ合いによる豊かな心と体の育成や生命の大切さを知ることなどを目的に、様々な授業でポニーを活用した教育活動に取り組んでいます。昨年度同様、今年度も各学年・学級でえさやりやブラッシング、乗馬や引き馬などの学習を積極的に行っています。今回は、小学部重複学級の児童を対象とした2つの事例を紹介します。

 

1.開校以来初の「河川敷での乗馬体験」

 本校は、大地を潤す「荒川」沿いにある学校です。毎年、春になると河川敷は桜や菜の花等が咲き誇り、見事な桜並木となります。「いつか桜並木を乗馬したいね」と、ポニー共育推進委員会のメンバーで冗談混じりに話していました。

 私は昨年度に続き、持ち上がりで2年生の重複学級の担任となったことをきっかけに「河川敷での乗馬体験」を実現させたいと思いました。担任している児童は昨年度、週1回の乗馬体験を継続してきたことでメロンに慣れ、それぞれが乗馬を楽しめるようになっていました。「メロンに乗って、春の草花や風を全身で感じてほしい」と願い、思いきって挑戦してみることにしました。

 河川敷での乗馬にあたって、委員会のメンバーの協力を仰ぎ、春休み中から練習を始めました。学校の敷地外を出て、公道を少し歩き河川敷へ。メロンは道草を食いたくなるところを我慢し、乗り降りの場所を含め子どもたちを乗せるルートを確認。これを2週間程度、ほぼ毎日練習しました。

 当日は、欠席の児童がおり全員で実施とはいきませんでしたが、2名が体験することができました。河川敷にやってくるメロンを、期待感を持って待ちわびる姿、早く乗りたくてメロンと並走して歩く姿がとても印象的でした。2名の児童は表出言語こそないものの、左右の桜の木々を眺め、春風を感じ、気持ち良さそうな表情で乗馬を楽しむことができました。メロンはというと、練習したルートを落ち着いて歩き、お陰で子どもたちも安全に乗り降りできました。

 

 

 

 

2.生活単元学習:「メロンの誕生日をお祝いしよう!」

 5月20日のメロンの16歳の誕生日に向け、小学部重複学級2クラス4名で「メロンの壁画」制作をしました。春はちょうどメロンの毛が生え変わる時期です。せっかくなのでブラッシングの際に出たたくさんの「抜け毛」を活用することにしました。

 下絵はクレヨンで教員が描き、そこに子どもたちが刷毛を使って、絵の具で鮮やかな色を塗りました。

 仕上げに、「しっぽ」と「たてがみ」にボンドで毛を貼っていくという活動です。メロンの毛を両手に包み込みふわふわを実感する児童、ふーっと風に吹き飛ばす児童など、それぞれが興味を持ち、遊びながら活動に取り組むことができました。

 

 

さいごに

 小学部におけるポニーを活用した教育活動について、2事例を取り上げさせていただきました。今後も本校でポニーを活用した取り組みが活発に行われ、子どもたちの豊かな心と体づくりの土台となることを期待しています。

「ポニーを活用した高等部の教育活動の実践事例」 栗原 理恵

 

本校高等部では昼休みの時間を利用し、飼育委員会の活動や各クラスでの輪番制によるお世話当番をすることで、ポニーという生き物と触れ合う時間を設けています。家庭で飼育する動物としてはあまり類を見ない動物であるため、体躯の大きさに恐怖を感じる生徒もいたり、動物の持つ澄んだきれいな瞳に魅了されたり、生徒個人によって抱く感情は様々です。生き物のお世話の中でも、特に体が大きく、ケアが多分に必要な動物のお世話をすることは、その経験を通して得られるものが大きいと感じています。

 

1、 飼育委員会

本校高等部では委員会での活動として、『メロン飼育委員会』を立ち上げています。主な活動は、昼休みの時間を利用した飼育活動です。また、今年度はメロンの生誕15周年という節目でもあったため、誕生日を記念した活動も行いました。

 

飼育活動では、月に1、2回昼休みに委員会メンバーでお世話を行っています。お世話の内容は、ブラッシング、蹄の裏堀、蹄油、餌やり、小屋掃除等です。生徒は、委員会に入ってまでお世話をしに来るため、ほとんどモチベーションの高い生徒が集まりますが、中には苦手を克服する、という意識で参加する生徒もいます。

活動当初はポニーに触れることができず、小屋掃除等のポニーから離れた活動を選ぶほど恐怖を感じている生徒がいました。そのため、初めに教員が手本を示したり、手を添えて安全な位置からブラッシングをしたりして、直接触れなくてもできるお世話から経験を重ねていきました。すると、次第に触れることができるようになり、年度末には、多少の恐怖感は残るものの、一人でポニーを撫でることができるようにまでなりました。

 

誕生日記念行事としては、校内でメロンへの誕生日メッセージを募り、それらを貼り付け、展示する『メッセージボード』を設置しました。高等部だけでなく、小、中学部からも多数のメッセージが寄せられ、華やかなメッセージボードを完成させることができました。ポニー共育推進委員会では、メロンからのお礼として、蹄の型をとり、展示しました。裏堀をしないと見ることができない蹄の裏側に、生徒たちは驚きの声をあげていました。メロンの蹄という細部を知ることで、ポニーをより身近に感じられる活動になったと感じています。

 

2、 クラスによる当番

委員会での活動だけでなく、昼休みの時間には各クラスが輪番制で飼育当番を担当しています。お世話の内容は委員会の活動と同じです。委員会と異なる点は、当番制となると、必ずしも全ての生徒が前向きにお世話に取り組むわけではなく、中には煩わしさを感じながら参加する生徒もいることです。それでもお世話を怠らない生徒に話を聞くと、「私たちがやらないと、メロンのご飯がないし、いつも一匹でかわいそうだから」と、動物に心を寄せる声が返ってきました。心の持ちようで行動が促させることの表れだと感じました。

 

3、 活動と成長

先述した通り、生き物を飼育することで得られるものは多分にありますが、生徒が一人で飼育するには困難な大きさであるうえ、お世話の内容も多い生き物です。なので、ポニーの飼育の経験を通して、「責任感」と「協力性」が養われると考えました。

「責任感」については、飼育作業を一つの命を預かる仕事として捉えることで、煩わしい作業ではなく、使命感溢れる仕事として考えることができます。生徒たちは、繰り返し当番を行うことで、その使命を感じ、責任感の醸成に役に立てられていると感じます。当番の日になると、「今日は当番だよ!」と、力強く教えてくれたり、仕事を覚えて、それぞれが役割を分担し、進んでお世話を行うことができるようになったりしてきました。これらの行動、態度は、生き物を飼育することに対して、責任感が養われていることの表れだと考えられます。

「協力性」も、ポニーの飼育を通して養われていると感じます。ポニーのお世話は生徒一人の力で行うことは困難であるため、委員会のメンバーや、クラスメイトと協力して行わなければなりません。また、昼休みという限られた時間内で行わなければならないため、役割分担をして作業を円滑に進める必要があります。つまり、それぞれが役割を果たすことで、初めてポニーのお世話ができたといえるのです。これは、一つの目標に向かってそれぞれが力を発揮し、協力し合うことで達成する、という経験をしていると捉えることができるのです。

 

4、 総括

私たち高等部は、飼育作業を通して、多様な経験と成長が得られると考えています。そのため、この飼育作業を、仕事に対する責任感や、仲間と協力する大切さ等、社会に出てから必要な態度を身につける作業として捉え、活動しています。単に生き物を育てるということだけでなく、生き物を育てることから何を学べるか、生徒の成長にどのように寄与できるか、といったことを考えながら、この活動を永く続けていけたらと願います。

【馬ライフ2022-9】馬と子ども企画-馬の学習

山形新聞「うまのすけCafe」

1 うまのすけCafeのご紹介

うまのすけCaféは山形県山形市にあるみはらしの丘ミュージアムパークという蔵王連峰を一望できる、とても眺めの良い公園内にあります。

Caféにはポニーのロイちゃん(9歳の雌)が常駐しており、にんじんの餌やり、触れ合いができ、そして月に一度は最上町にあるわくわくファーム前森高原より2頭の大きな馬がきて子どもから大人まで乗馬体験ができるという取り組みを行っています。

 

店内のカウンター席からはすぐ目の前にロイちゃんを見ることができ、素敵な景色を眺めながら飲食をして頂けます。外の広い芝生のオープンスペースではテーブル席とたくさんの丸太の椅子を置き、大自然の中、ソフトクリームや軽食を食べながらゆっくりとくつろげる場所になっています。

馬を介し障がい者も健常者も同じ空間の中で交流が生まれ、そこにいるだけで心と体が癒される、そんなカフェを作りたいという私の長年の夢をやっと実現することができました。

 

2馬との出会い・これまでの活動

私は35年間、障がい者支援施設で勤務する中、16年前に障がい者乗馬という活動に出会いました。はじめて利用者さんを馬乗りに連れて行ったとき、施設の中では全く笑う事のなかった女性の利用者さんが馬に乗った途端、満面の笑顔に変わったのです。あの時の感動は今でも忘れることができません。馬って凄い!!と・・・

毎月、外部での乗馬活動を繰り返していくうちに、自分の施設で馬を飼い、乗りたい時に乗れる環境が欲しい、もっとたくさんの利用者さんに馬に乗って笑顔になってほしい、という思いが強くなり、夢の実現に向けて動き出しました。

 

そして数年後その願いが叶うことに!!

まったく馬の知識のない私は乗馬活動を始めるために本格的に障がい者乗馬を行っている当時の宮城県船形コロニー内ルミエール牧場にて数か月間にわたり馬についての様々なノウハウを徹底的に叩き込んで頂きました。

ついに平成17年、施設内に「障がい者乗馬施設まいんどパーク」を開設し、施設の利用者さんをはじめ、山形市内の障がい者施設、作業所、特別支援学級等、たくさんの方々に乗馬を楽しんでいただける場所としてご利用して頂くことになりました。

 

これまで私は利用者さんたちが馬に乗ることで見せる様々な身体的効果や情緒的効果を目の当たりにしてきましたが、その中でも特に驚きの変化を見せてくれた方がいらっしゃいました。その方は弛緩性の脳性小児麻痺で一人では座位を保つことが出来ない寝たきりの方でした。最初はスタッフが抱きかかえての乗馬から始まり、時間をかけて乗り続けていく中で徐々に自分の力で起き上がろうとする力がついてきたのです。数ヵ月後次のステップとしてご本人一人を馬に乗せサイドウォーカー4人付いての乗馬に変えました。

 

回数を重ねるたびに馬上で自分の身体を両腕で支え起き上がるという行動が見られるようになり始めてから2年という月日を経て遂に一度も倒れこむことなく自分一人で座位を保ち馬に乗れるようになったのです。その時のご本人の表情は得意げに素敵な笑顔を見せてくれました。ご家族はもちろん、私たちスタッフの喜びは言葉にならないほどの感動、そしてご本人への感謝の気持ちでいっぱいでした。

長い歳月はかかったもののその方の生活自体を変える素晴らしい結果に至ったことは私たちスタッフにとってとても大きな実績として次につながったことは間違いありません。

 

15年前に馬による様々な効果をたくさんの方に伝えたいと思いスタートさせた「やまがた馬まつり」もたくさんの方に認知され、毎年多くの方々においでいただける山形の大イベントになりました。

(一昨年、昨年は残念ながらコロナの為、開催中止となりました。)

私は3年前に施設を退職し、これまでの経験をもとに在職中からの夢であった馬を介して交流の場を作りたい、そしてそこから馬のすばらしさを発信していきたいという思いで馬カフェ設立の準備を行い今年4月、グランドオープンに至りました。

 

3 うまのすけCaféオープンから今までそして今後について

  うまのすけCafeをオープンして2か月が経ちましたが予想以上の反響に驚いています。多数のマスコミから取り上げて頂いたこともあり馬を身近に見られる、触れ合える、餌をあげられる、そんな場所が出来た事で県内はもちろん県外からも足を運んでいただいております。

ロイちゃんへニンジンをの餌やりをして、にこっと笑顔になる子どもたちの顔を見ると本当に嬉しくて馬カフェを作ってよかったなと小さな幸せを感じています。

今後の展開として、ポニーのロイちゃんへの乗馬(現在調教中)、そして保育園、幼稚園などへ出向きロイちゃんとの触れ合いを楽しんでもらいたいと考えています。

 

これからもたくさんの皆さんにうまのすけCafeを知っていただき、馬に癒され、素敵な風景に癒され、ほっとして頂けるような場所作りを目指していきたいと思っています。

 

 

 

 

1 地域と木曽馬

私たちの施設にとって、「ホースセラピー」とよばれる活動も木曽馬の種の保存を行う活動のなかの一つです。乗馬をすることや触れ合うこと、馬の世話をすることそして木曽馬を知ってもらうことの延長線上にあります。

種の保存をしていくうえで、木曽馬や木曽馬の里の施設を地域の様々な人に利用をしてもらい、一人でも多くの方々にその存在を認知してもらうこと、見守ってもらうことが重要だと考えています。このことから、馬と一緒に地域の活動に参加し、皆さんに直接馬との触れあいを楽しんでもらうことを私たちの活動のひとつにしています。

特に、子どもの頃から身近に木曽馬と接することで得られる達成感や、親子で感じられる楽しさなどを通じて、地域で木曽馬を保存する大切さを培ったり、将来的に木曽馬に携わる人たちが増えることへの期待が私たちの中にはあります。

今回は、その一つ、小学校での活動の紹介をしていきたいと思います。

開田小学校との馬の活動

 

歩いて10分ほどの場所にある開田小学校では、25年前から木曽馬とふれあう活動が行われています。当初は、総合的な学習の時間や地域学習などで、学年ごとに木曽馬の里に来て、木曽馬とかかわる内容の活動でした。その後、校舎脇に仮設で作った放牧場に毎週金曜日に木曽馬の里から馬を連れていき、馬の飼育体験をしていたことがあります。

現在は、次のような定期的な活動とイベント的な活動がいくつか行われています。

クラブ活動では、3年生から6年生の6名の児童が5月から11月にかけて月一回の乗馬を中心に行っています。のんびり歩きたい子、走らせてみたい子、引き馬でないとちょっと怖いと思っている子などさまざまですが、馬とグルーミングや乗馬を通して、絆を深めるとともに、子供たちがお互いにサポートしあいながら、1時間余りの活動を楽しんでいます。

はじめは引き馬でも怖がっていた子が、自ら速歩まで挑戦するようになったり、常歩で苦戦している子のサポートに入ったり、回を重ねるごとに馬との距離が縮まり、馬と一緒に歩くことも上手になっていき、馬との調和も取れていきます。クラブ活動の終盤には速歩に挑戦する子も増えてきます。学年を超えてお互いに成長していく姿は毎年楽しみなところです。

地域文化を伝える
小学校での馬耕体験

 

 

 

2 地域文化を伝える

乗馬という活動自体、学校が行う活動としてはあまり例をみないことだと思いますが、開田小学校では、他にも馬とかかわる学習があります。

5年生は授業の中で校舎脇の水田を使って稲作を行っています。この学習は地域ぐるみで支援している活動で、毎年、地域で協力者を募っています。近隣農家を訪問して行う苗起こしを皮切りに、田起こしでは20年ほど前に近隣の農家から譲り受けた馬耕犂を実際に木曽馬に牽かせ田んぼを耕しています。

以前は、子どもと保護者が総出で鍬を使って田んぼを耕していました。馬がかかわるようになってからは、自分たちが鍬を使って少し耕してみた後に、馬に牽かせた犂を子供たちが持ち、田んぼを耕していきます。鍬では10人がかりで何分もかかっていた面積を、馬がスイスイと牽いて耕していくのをみて、驚きの声が上がることもあります。体験の最後には、犂を数人の児童で牽いてみて、馬の力がどのくらいあるのかも体験もしてもらっています。

馬耕体験を行っている水田が高齢者のディサービスセンターや保育園の隣に位置していることもあり、園児たちの声援を受けて頑張る児童の姿や、その昔実際に馬耕をしたことある高齢の方が、「懐かしい」といいながら私たちや子どもたちに声をかけてくれるシーンも見られます。昔は当たり前に見られた馬との作業の風景も、今ではこの小学校での馬耕ぐらいしか見ることが出来なくなり、地域外からも関心のある方が見に来る活動となっています。

木曽馬と40m走。地域のみんなで木曽馬に挑戦!

 

 

運動会では、8年前の開校30周年記念の運動会から、児童会長が木曽地域から京に上った武将の木曽義仲に扮して鎧兜をまとい、木曽馬に跨って他の児童と一緒に入場行進を行っています。運動会で馬に乗りたいから児童会長に立候補をする子がいるほど人気の役割です。

そして、お昼休憩にはアトラクションとして「木曽馬との40m走」を行っています。小学生たちは10~20mほどハンディをあげての挑戦してもらい、絶妙な競争距離となるためいい勝負をしています。このアトラクションには、地域の方たちも参加できるため、小学生の時に負けてしまい悔しかった子が、中学生や高校生になって改めて挑戦することもあります。もちろん、PTA役員や教員の方もいて、地域を挙げて盛り上がり、テレビや新聞などの取材も来るようなにぎやかなものとなっています。ちなみに、中学生以上はハンディ無しの馬と同じ距離での真剣勝負となります。これは木曽馬とクビ差くらいの良い勝負になり、一層の盛り上がりをみせます。

 

3 馬の暮らし全体を通して

 

3年ほど前から、特別支援学級の子どもたちが毎月一回、厩舎作業、グルーミング、乗馬体験を取り入れた学習活動を行っています。

活動のスピードが児童によって異なるため、教員だけでなく手の空いているスタッフも交えて、いくつかのパートに分けることや、作業する場所を見える範囲に集約することで、スムーズに活動が展開するように工夫をしています。

複数の学年が一緒に活動するために、上級生のグルーミングや乗馬の様子を見てもらえるように、それとなく蹄洗所や馬場へ誘導しながらの活動にすることで、「Aさんみたいに乗りたいな」とか「馬を引いてみたい」と次の目標を子供たちが見つけやすい活動を心がけています。

前回ご紹介した、木曽養護学校と行っている「定期的な馬の学習」のように、個別プログラムを立てて行っている活動ではありませんが、教員の方と牧場スタッフとがそれぞれの子どもたちの課題を見極め、相談する時間を取ることで、個々の特性を活かし、楽しみながら苦手に挑戦できるような活動を心がけています。

 

4 馬とともに地域で育む

 

この様な学校での活動を通じて、木曽馬と地域とのかかわりは特別なイベントだけでなく、次第に日常に近い活動になってきているのではないかと思っています。かつてこの地域では生活の中に馬がいるのが当たり前で、馬が自然と地域活動に入りやすい環境があります。このような活動が町内から郡内へと広がり、職場体験や校外活動につながり、将来の木曽馬の担い手育成につながっています。

この20年間では約200人が職場体験などの体験学習に参加し、約20人が馬に関わる仕事に興味を持ちました。その中で、3名が木曽馬の里で馬とかかわる仕事をしています。

まだまだ少ない人数ですが、ここで育っていった子供たちが人と馬をつなげる役割をそれぞれの立場で紡いでいくことで、人にも馬にも幸せな世の中になっていくことをこれからも期待しています。

1 ポニー共育推進委員会の役割      蛭田敦子

深谷はばたき特別支援学校は開校から11年が経過し、在籍年数ナンバー1の「メロン」は本校にとって唯一無二の存在です。今では卒業した生徒が、メロンににんじんを持って会いに来る姿も見られるほどです。児童生徒にとっては、メロンがいる学校生活は当たり前なのだと実感します。
さて、児童生徒にとっては、当たり前の存在であるメロンですが、毎年、転入してくる教職員にとっては、初めて世話する大型動物になります。「メロンは生きる教材である」と初代宇田川校長は、話されていました。「生きる教材としてメロンを活かすには、まず教員たちがメロンを知らなくてはなりません。そのためにポニー共育推進委員会が発足し現在に至っています。今回は、その委員会の役割について紹介いたします。
 
1 メロンの命をつなぐ
メロンは大きな怪我や病気もなく今年15歳を迎えました。毎年4月、本校に転入してくる職員は委員会が主催するメロンの飼育方法を研修し実地体験します。毎日必ず、メロンの世話が適切に出来るように支援しています。メロンの健康、命がつながれているのは、この研修があるからといっても過言ではありません。
 
2 メロンと児童生徒をつなぐ
前号でも小松教諭がメロンを活かした自立活動の授業を紹介しました。委員会ではポニーを活かす授業の取り組みができるようにポニーを使った療育の紹介、講師の招へいを行ってきました。今回は、山﨑教諭の実践を紹介します。
 
3 メロンと地域をつなぐ
本校の文化祭は「メロンフェスティバル」と言います。(この2年間コロナ禍で開催中止)委員会はメロンと保護者や地域の方との触れ合う場を設け、メロンを知ってもらう機会としています。
 
このように、ポニー共育推進委員会は、まずメロンの命をつなぎ、そして、生徒と地域をうまくつなぐパイプライン的な役割を担っています。今後も、メロンが健やかに毎日を送れ、本校の児童生徒と共に育っていけるよう機能を果たしていきたいと思います。
 
 

2 ポニーを活用した小学部の教育活動の実践事例  山﨑 雅季

小学部では、動物との触れ合いによる心と体の育成や生命の大切さを知ることなどを目的に、様々な授業でポニーを活用した教育活動に取り組んでいます。今年度は、これまで各学年でえさやりやブラッシング、乗馬や引き馬などの学習を行っています。特に乗馬では、小学部の全学年が体験活動を行っています。このことは、開校以来、初めての出来事で、児童たちは積極的に取り組んでいます。このような中で、小学部の児童を対象とした3つの事例を紹介します。
 

<大集団での生活単元学習の場面>

ポニーの飼育活動を通して思いやりと優しい気持ちを育てることや生命の大切さを知ることを目的に、
各学年でえさやりやブラッシングに取り組んでいます。えさやりとブラッシングでは、初めはメロンに近づくことや触れることが難しかった児童も、教員と一緒に繰り返し行う内に、自分から触ろうとしたり、えさを上げたりする様子が見られます。高学年になると低学年からの学習の積み重ねにより、一人で手馴れた様子で人参を上げたり、優しくゆっくりとブラッシングをしたりする児童も増えてきます。
 

<小集団での生活単元学習の場面>

4年生では、姿勢保持力やバランス感覚の向上、股関節や肩関節など、可動域の拡大などを目的に、乗馬に取り組んでいます。学習を始めた頃は、メロンに乗った時の高さや揺れなどに不安や抵抗感を感じてしまい、乗る時に足を高く上げることが難しく鞍に乗ることに時間がかかる児童や、乗っている時に姿勢が崩れてしまう児童、手や肩に力が入ってしまう児童の様子が見られました。約3ヶ月の継続した学習の積み重ねにより、鞍に乗る時に片足を上げて一人で乗ることが出来るようになった児童や乗馬中に手や肩の力が抜けて周囲を見渡しながらリラックスをした様子で乗っている児童など、自分で姿勢調節ができるようになってきています。
 

<図画工作での場面>

5年生では、「メロンのお友達を作ってあげよう」を題材名とし、吹き流しを行いました。児童に親しみがあり、イメージが湧きやすいメロンの写真を児童に見せることで、これから作る作品イメージを持たせ、児童が意欲的に活動できるようにしました。授業では、児童が大好きなメロンを題材としていることもあり、意欲的に吹き流しに取り組むことができ、メロンの仲間であるライオンや犬などのお友達を作ることができました。小学部におけるポニーを活用した教育活動について、3事例を取り上げさせていただきました。この他に中学部や高等部での活動もあります。本校での取組が、今後の教育に活用できれば幸いです
 

 

 

 

 

はじめに

かつて、日本国内には100万頭を超える馬が飼育されていました。それが、現在では約7万5千頭といわれています。
さて、皆さんは日本に現存する日本固有の馬、「日本在来馬」をご存知でしょうか。現在、全国に8種、約2000頭が飼育されています。
現存する在来馬の原産地域のほとんどは、いわゆるへき地と呼ばれる場所です。
戦時中の軍馬改良の中で目が届きにくかった山奥であったり、島であったり、そのような場所だからこそ、種が残され戦後も馬の飼育が続いてきた歴史があります。
ここでは、「日本在来馬」の一つである「木曽馬」と木曽馬の保存施設「木曽馬の里」の活動をシリーズで紹介していきます。

 

1 「木曽馬の里」について


[放牧場から望む御嶽山]

長野県木曽町開田高原は、かつては木曽馬の一大産地といわれた木曽地域の山間にある高原地帯です。
古くは2,000頭以上もの馬たちが飼育されていたといわれるこの地域に、「木曽馬の里」があり、現在約40頭の木曽馬が飼育されています。
「木曽馬の里」の役割は、主として木曽馬の保存繁殖です。そのため、毎年数頭の子馬が誕生し、親子で駆け回る景色を見ることができます。
また、観光施設としても解放されており、約50ヘクタールの広い敷地内に大小の放牧場が点在し、御岳山をバックにのんびりと放牧されている風景は、見るだけでもホッと一息つける景色なのではないでしょうか。放牧されている馬たちに草をあげたり触れ合ったりすることもできます。

 

2 木曽馬の特徴と施設の環境を活かした活動


[上級生と一緒にグルーミング]

木曽馬は、平均で体高132cmとそこそこの大きさがあり、大きなポニーサイズです。
盲腸が馬の平均よりも太く長いことからお腹がぽってりと出て足が短いこの馬たちは、乗っても縦に揺れる幅が小さいのが特徴で、観光乗馬だけではなく、近隣の養護学校の生徒たちの学習など障害のある人たちに利用されるようになり20余年が経とうとしています。
いわゆる「ホースセラピー」では、多くの方が馬に乗っての活動場面を連想するかも知れませんが、ここでは乗るだけでなく、馬とかかわること、そして馬の施設を含む環境全体を活かして活動を行う工夫をしています。
乗ること以外には、馬と一緒に歩く、馬のグルーミングを行う、馬たちの生活する厩舎の掃除をするなどがあります。
また、広大な敷地には散策道があり、高原の木陰を歩きながら、のんびりと馬たちを眺めるなども大切にしている活動です。

現在継続的に利用されているのは、肢体不自由や知的障害のある方、不登校の子供たち、乗馬クラブなどで落馬を経験し、馬が少し怖くなってしまったけど、また乗ってみたいと思っている方、馬の背中でゆっくりと揺られてリラックスしてみたいと思っている方、あわただしい生活の中で感じる息苦しさから解放されたい方など、様々です。
私たちは、そのような利用者の方々が安心してかかわることのできるよう<木曽馬>という希少種を生産し、日々馴致調教をしています。

木曽馬の里は、その設置目的から木曽馬のみを飼養しています。
このことから、ここでの活動は木曽馬ならではの特徴と個々の馬たちの個性を最大限活かしていくことを重視しています。
その特徴として、先ほど挙げた縦揺れが少なく安心して乗っていられることがその一つですが、障害のある利用者のなかには、騎乗時や馬の揺れによってバランスを崩しやすく、騎乗中の姿勢を維持するために介助の必要な方がいます。
そのような場面でも、背の低い木曽馬は、女性でも介助しやすいという障害のある利用者の乗馬をサポートする面でもメリットを挙げることができます。
また、大きな馬はそれだけで威圧感があり、子供たちは怖く感じてしまうこともあります。
反対に、小さい馬の場合はいつも見下ろされていて、人に対して卑屈になって問題行動を起こしてしまう馬もいるといわれています。
そういった意味で、木曽馬は目線が人に近く独特の関係をつくれるように感じます。そして何より、その穏やかな性質がセラピーホースに向いているのではないかと考えています。

反対にデメリットとして考えられるところがあります。
一般的に、頸の短い馬は扱いにくいといわれていますが、まさに木曽馬は頸の短い馬です。
しかし、生産から活用までの一貫した馬との関係、観光牧場という環境で馬たちが不特定多数の方への対応、そして馬が馬らしく暮らせる群れでの生活といったことを通じて、「木曽馬の里」の馬たちはそのような特徴を越え、人と落ち着いたコミュニケーションが可能になっています。

 

おわりに


[ワークショップにて]

近年私たちは、馬の背に揺られながら心とからだをほぐしていくプログラム、馬と一緒の高原散策、馬とのコミュニケーションから人との対話を考えるワークショップなど、木曽馬と御嶽山を臨む自然豊かな開田高原という環境を最大限に活かした様々な活動を行っています。
次回からは、それら様々な活動にスポットを当てて紹介をしていきたいと思っています。

1.学校紹介


埼玉県立深谷はばたき特別支援学校は、知的障害のある子どもたちを対象とした特別支援学校です。
埼玉県北部に位置し、深谷市、熊谷市、寄居町が主な学区となっています。
 
校舎からは北側に荒川、南側に金勝山を見ることができる、自然や田畑に囲まれた穏やかな学校です。
 
本校は、平成23年度に開校し、昨年の令和2年度に創立10周年を迎えました。
現在は小学部87名、中学部74名、高等部123名、計284名の児童生徒が在校しています。
 
本校の学校教育目標は、「笑顔、かがやき、そして未来へ」です。子どもたち一人一人が笑顔でかがやけるように、そしてこれからの未来へ大きくはばたいていけるように、「翼」=「心」を育てることを学校教育目標としています。また、子どもたちの社会的自立を目指し、主体的に生きる力を育む学校となることを、目指す学校像として設定し、取り組んでいます。
 
本校の特色として、キャリア教育や自立活動の充実、広い敷地を活用した幅広い教育活動、そして、ポニーを活用した学習の実践が挙げられます。

 

2.本校児童生徒について

本校の児童生徒は、様々な障害がありながら、元気に学校生活を送ることができています。
新型コロナウイルスの流行で、様々な活動が制限されていますが、そんな中でも学校行事に全力で取り組む姿を見ることができます。
 
5月には、昨年中止を余儀なくされた運動会が開催されました。
感染症予防のため、小学部、中学部、高等部と分かれて行われましたが、日々の教育活動の成果を発揮できた運動会となりました。
 
小学部では、子どもたちに大人気の『鬼滅の刃』の主題歌である『紅蓮華』に合わせてダンスを踊りました。元気よく、のびのびと踊る姿が印象的なダンスでした。
 
中学部では、高知県の伝統的な踊りである『正調よさこい』を披露しました。
学部全体を通して練習をしている踊りで、鳴子のパチパチという音が校庭中に響き渡りました。
 
高等部では、学年の選抜リレーが行われました。1人ひとりが全力を出し、校庭を駆け抜けていきました。
ゴール後には、仲間内で称え合い、励まし合う姿が見られました。
 
まだまだ活動に様々な制約がある中ですが、子どもたち一人ひとりが成長し、明るく元気に学校生活を送ることができています。

 

3.ポニーについて・飼育環境


〔メロン〕
 
本校では、「メロン」という名前のポニーを、敷地内で飼育しています。
今年15歳になる牝馬で、人懐っこく、マイペースな性格のポニーです。体高は約125cmで、小学部低学年の子どもたちとほぼ同じ背の高さです。
また、開校当初から学校におり、誰よりも長く子どもたちと接しています。
 
普段は敷地内の「ふれあい広場」と呼ばれる施設にある厩舎・パドックで生活をしており、子どもたちがポニーと自然に関わることができる環境にいます。
 
日々の給餌や掃除、手入れ、運動は、ポニー共育推進委員会を中心に、全教職員が当番制で行っています。
子どもたちの下校後や休日は、広場内で放牧をし、柵の外からメロンが自由に過ごしている様子を見たり、ニンジン等のおやつを与えたりすることができます。

 

4.ポニー導入の経緯

平成22年、埼玉県立北部地域特別支援学校(仮称、後の埼玉県立深谷はばたき特別支援学校)の開設準備室で、「人と交流できる大型の動物を導入しよう」と、大型動物導入の検討が始まりました。
 
ポニーの導入にあたっては、教育活動の重点に、動物(ポニー)とのふれあいによる心とからだの育成を位置づけて取り組むこととしました。
子どもたちには、①ポニーの飼育活動をとおして優しい気持ちを育んでもらいたい、②乗馬をとおして、姿勢を整えて身体をリラックスさせ、落ち着いて活動できる力を養ってほしい、という2つの思いがありました。
また、効果や成果を地域の方々と共有し、地域コミュニティーの一層の充実を図っていきたい、という期待も込められていました。このような教職員の願いを受けて、ポニーが導入されました。

 

5.ポニーを使った教育活動の実践


〔メロンと生徒の様子〕
 
ポニーを使った教育活動として、中学部の生徒を対象とした自立活動を紹介します。生徒が中学部2学年の時にポニーを使った活動を始め、2年間取り組みました。
 
対象生徒は、移動時や授業中に突発的に走り出すことが多く、周りの人を押しのけたり、前にいた子どもにぶつかってしまったりしたこともありました。
突発的な走り出しの原因として、本人の様子や行動から、見通しが持って行動できる分、一刻も早く目的の場所に着きたいという気持ちがあるのではないか、と考えられました。
そこで、『安全に配慮して行動することができる』という目標を設定し、教員や友人と一緒に行動できるような場面を多く設定すること等、指導や支援の内容として取り入れました。その指導の中で、ポニーの引馬を行うことで、周りを意識して歩くことができるのではないかと考え、指導に取り入れるようにしました。
 
本生徒とポニーの関係は良好で、ブラッシングや餌あげ等基本的なお世話は小学部から経験してきていました。
本人もポニーと触れ合うことに抵抗がなく、毛並みに沿って触ったり、首や背中を優しく撫でたりすることができました。
 
活動の主な内容は、ブラッシング、引馬、餌(ニンジン)あげの3つです。
引馬は、最初は引手を持って広場内を一周するのも難しく、引手を途中で放したり、ポニーを置き去りにして走って行ったりすることが多かったです。
そのような中でも、ポニーの背中やたてがみに片手を沿えて歩いたり、立ち止まってポニーを撫でまわしたりするなど、一緒に歩くポニーを気にしている様子が見られました。このような活動を1年ほど続けると、本生徒は、引手を放すことなく歩くことができるようになってきました。
 
1週間に1回、移動や準備を合わせて45分ほどの活動時間でしたが、このような取組を2年間続けました。
中学部を卒業するころには、本生徒は広場内を2~3週程、走ることも立ち止まることもなく、ポニーに合わせて歩くことができるようになりました。
また、日常生活の中でも、1日に数回あった突発的な走り出しが目に見えて少なくなり、友人と一緒に落ち着いて行動できるようになりました。
 
ポニーの教育活動の1つとして、自立活動の事例を取り上げさせていただきました。
この他にも、生活単元学習や、飼育委員会での活動などがあります。
次回から、メロンと子どもたちの交流の様子やメロンとともに行う教育活動を折々にお伝えしていきます。